ジメジメした梅雨が明ければ、いよいよ夏本番。
暑い夏を乗りきるための秘訣は、カキ氷でも冷し中華でもありません。なんと言っても、背筋からすぅーっと冷たくなるような怖い話―――そう、怪談につきます!
今回は暑さを吹っ飛ばす、とっておきの企画。沖縄の有名な怪談・怖い民話や伝説をご紹介します。もちろん、話だけでは終わりません!実際にその舞台となった場所もご案内します。
アノ話もコノ話も、実は定番観光スポットのすぐそばが舞台!?
さぁ、エアコンの効いた部屋から出て、体の芯から涼しくなる怪談スポットめぐりの旅に出発しましょう!
<もくじ>
1. 鬼餅(ムーチー)の話|那覇・首里
2. 識名坂の遺念火|那覇・首里
3. 耳切坊主|那覇・首里
4. 七つ墓|那覇・牧志
5. 旧崇元寺石門|那覇・泊
6. 日常のとなりに・・・
1. 鬼餅(ムーチー)の話|那覇・首里
沖縄ラボでもたびたび登場する、沖縄のソウルフード=餅(ムーチー)。
旧暦の12月8日には家族の無病息災や子供の健やかな成長を願って、月桃(ゲットウ)の葉に包まれたムーチーを食べる「ムーチーの日」があります。
このムーチーを漢字で書くと『餅』もしくは『鬼餅』。
日本各地を見れば縁起物として『鬼』の字が使われることは良くありますが、沖縄の『鬼餅』の由来は、ちょっと驚きの怖い話なのです・・・。
お話の舞台は首里・金城石畳の大アカギがある「内金城嶽(うちかなぐすくたき)」です。
むかし首里の金城に、ある兄妹が暮らしていました。
その兄が、いつしか人や家畜を喰らう鬼となり洞窟にこもってしまいます。何とかしなければと心を痛めた妹は、兄の大好物だった餅に鉄を練りこんだものを用意し、兄に会いに行きました。そして「一緒においしい餅を食べよう」と言葉巧みに崖の上に誘いだしたのです。
心も姿も恐ろしい鬼と化した兄を見て、妹は退治することを決心します。そして鉄入りの餅を食べてひるんだ鬼を、妹は崖の下へと突き落としました。
妹は人々から感謝され、鬼を退治した餅は『鬼餅』と呼ばれるようになりましたとさ。めでたし、めで・・・たし?
素直に『めでたし』とは言えない、なんとも深い闇を感じます。
この鬼餅由来の話には数バージョンあり、餅に練りこむモノや鬼の倒し方が違います。とても子供には聞かせられない、強烈な内容のものもありますが、兄が鬼になって妹が退治する流れは同じ。その鬼退治の舞台となったのが「内金城嶽」なのです。
「内金城嶽」には大小2つの御嶽(うたき=お祈りをする場所)があり、小さな御嶽には退治した鬼の角が祀られているのだとか。
鬼となった兄は、この小さい御嶽の右手にある崖(というより、ちょっとした落差)から落ちて死んでしまったそうです。
この話の何が怖いって、調べた限りでは“兄が鬼になってしまった明確な理由がない”ことです。人間いつ何時、鬼になるか分からないという戒めなのでしょうか。
鬼になったから引きこもったのか、引きこもったから鬼になったのか。そもそも本当に兄は鬼になったのか。厄介者の兄を、妹が体よく“退治”したのだとしたら・・・想像を膨らますほどに怖くなるのも、怪談の醍醐味です。
【鬼餅由来の場所(内金城嶽)】
■場所|金城町石畳入口(首里城側・金城ダム側ともに)より徒歩6分
※樹齢300年の大アカギがあるパワースポットとしても有名。
■周辺スポット|首里城・金城町石畳道
2. 識名坂の遺念火|那覇・首里
ムーチーの恐さにゾクゾクしつつ、金城町石畳道を下り、道を挟んですぐの金城橋の先にある「識名坂(しきなざか)」にやって来ました。
この周辺は静かな住宅街ですが、沖縄では有名な怪談の一つ「識名坂の遺念火(しちなんだびらぬいにんび)」で知られるスポット。遺念とは死者が遺した念のことで、遺念火(いねんび)とは人魂のことだそうです。
こちらの怪談もバージョンによって細かな違いはありますが、総じて悲しい夫婦のお話が伝えられています。
むかし大変仲のよい豆腐屋の夫婦がいました。
美人で働き者の妻は、識名から首里まで毎日お豆腐を売りに来ていました。そして心優しい夫は、妻の帰りを心配し迎えに行くのが日課でした。
そんな二人の姿を見た人が、イタズラ心から「妻が浮気している」と夫に嘘を教えます。夫はショックのあまり川に身を投げて死んでしまいました。それを知った妻も、後を追うように川に身を投げました。
それ以来、夕暮れになると2つの遺念火が現れ、坂の上から金城橋のある川岸までユラユラと寄り添いながら漂うようになったのだとか。
めでた・・・くない。
なんて迷惑な“イタズラ心”なんでしょうか!
というか、夫もうっかりどころではない早とちりです!
金城橋のたもとには「識名坂の記念碑」があり、案内板にも遺念火のお話が書かれています。沖縄の人にとって「識名坂の遺念火」は、実在する場所で語られる有名な怪談。イメージ的には、「四谷怪談」とか「おいてけ堀」とかが近いかもしれません。
昔ながらの怪談って、シンプルだけどジワジワ怖くなってくるのは私だけでしょうか。
【識名坂の遺念火】
■場所|金城町石畳道入口(金城ダム側)から徒歩1分
■周辺スポット|首里城・金城町石畳道
3. 耳切坊主|那覇・首里
子供たちが心穏やかに良い夢が見られるように、たっぷりの愛情と慈しみをもって歌い継がれている「子守唄」。沖縄には、泣く子も黙らざるを得ない、こんな子守唄があります。
♪大村御殿(うふむらうどぅん)の角に
耳切坊主(みみちりぼうじ)が立っている
何人立っているのかな
3人、4人と立っている
鎌も小刀も持っている
泣く子の耳は グズグズと切り落とされるぞ
ヘイヨー ヘイヨー 泣かないで♪
(※沖縄方言を共通語に訳した歌詞)
いや、怖いよ!
グズグズって妙にリアルな効果音だよ!
泣き止むどころか、むしろ泣きたいけど、泣いたら耳切られるよ!
そんな理不尽極まりない子守唄の中に出てくる「大村御殿(現・中城御殿跡)」は、美しい首里城を望む龍潭池(りゅうたんいけ)の向かい側にあります。
「耳切坊主」のモデルは、黒金座主(くるがにざーし)という実在したお坊さん。妖術を使い悪さばかりしていた黒金座主は、北谷王子(ちゃたんおうじ)との勝負に負け耳を切り落とされてしまいます。そのケガが原因で死んでしまったあとも、恨みをはらすために夜な夜な耳切坊主となって現れるようになったのだとか。
怪談話(この場合は子守唄ですが)には良くあるように、耳切坊主もまた史実を元につくられています。しかし、実際に黒金座主が悪者であったかは意見が分かれるようです。
歴史の真実がどうであれ、1つ確かなこと。
耳切坊主、怖い・・・。
2018年7月現在「大村御殿(現・中城御殿跡)」は、首里城公園の環境再生工事にともない整備中です。御殿跡の周囲を歩くことはできますが、龍潭池と首里城、中城御殿の古い井戸がある他は、石垣が一部あるのみです。
とはいえ、耳切坊主の話を知った後だと「もしかしたら角を曲がった瞬間に、鎌を持った耳切坊主と鉢合わせるのではないか・・・」と、ヒタヒタと追い詰められるような疑心暗鬼に襲われます。
ほら、どこからか耳切坊主の唄が聞こえてくる―――
【耳切坊主(中城御殿跡)】
■場所|首里城より、徒歩10分
■周辺スポット|首里城
4. 七つ墓|那覇・牧志
耳切坊主から逃げるようにやって来たのは、定番の観光スポット・国際通り。
まずは、沖縄旅行の便利な移動手段「ゆいレール」の美栄橋駅から見ることができる、隠れ怪談スポットに行ってみました。
開発が進む国際通り周辺で、ひっそりと取り残された雑木林。美栄橋駅のホームから見ると、沖縄のお墓「亀甲墓(かめこうばか)」があるのが分かります。
私有地のため中に入ることはできませんが、こちらも昔から沖縄で語られる怪談の舞台となっている場所の一つです。
むかし、七つ墓の森の近くに老婆が営む商店がありました。ある日から、夜になると若い女性が現れ、飴を買って行くようになりました。
ところが、その女性が置いていくお金が、翌日には紙銭(ウチカビと呼ばれる、沖縄では霊に捧げるお金)に変わってしまいます。不思議に思った老婆が、その女性をつけてみると、七つ墓の森へ入っていくではありませんか。驚いた老婆が後を追いかけ墓の中をのぞいてみると、女性の亡骸の側で赤ん坊が飴をしゃぶっていました。
小さな赤ん坊を残して死んでしまった女性を不憫に思い、女性は手厚く葬られ、赤ん坊は人々によって大切に育てられました。それからは、その女性の霊が飴を買いに来ることはなかったそうです。
赤ん坊のために飴を買う幽霊。
似たような話は全国各地にありますが、幽霊になっても子を想う母親の気持ちは同じ。なんだか切ない怪談話です。
【七つ墓】
■場所|「ゆいレール」美栄橋駅ホームから見ることができます
■周辺スポット|国際通り
5. 旧崇元寺石門|那覇・泊
さて、最後は“沖縄といえば”の有名人(有名妖怪)を探しに「旧崇元寺石門(きゅうそうげんじいしもん)」に行ってみましょう!
この立派なガジュマルを見れば、沖縄好き・怪談好きの皆さまはお気づきかもしれません。そう、ここ「旧崇元寺石門」にあるガジュマルの樹には、沖縄の妖怪(精霊)キジムナーがいるのです(たぶん)!
“幸せを呼ぶ精霊”とも“いたずら好きの妖怪”とも言われるキジムナー。詳しく知りたい方は、下記の特集記事をご覧ください。
【関連記事】
沖縄の精霊「キジムナー」気になる伝説の生き物の謎に迫った!
沖縄県内にはキジムナーが住むといわれるガジュマルの古木が数多くありますが、ここまで立派な古木は、なかなかにレア。
そんな立派なガジュマルがある「旧崇元寺石門」ですが、敷地にはガジュマルの樹と石門があるのみで、御堂などの建物はありません。かつての崇元寺は沖縄戦の激しい戦火によって全壊してしまいました。趣を感じる重厚な石門も、戦後に復元されたものだそうです。
何もない広い緑地に立ってガジュマルを見ると、妖怪より、幽霊より、生きている人間が1番怖いのかもしれない・・・そう思わずにはいられません。
【キジムナーがいるガジュマル(旧崇元寺石門)】
■場所|ゆいレール牧志駅or美栄橋駅より、徒歩10分
■周辺スポット|国際通り
6. 日常のとなりに・・・
沖縄の怪談スポットを巡る旅、皆さまの暑さは少し和らいだでしょうか。
はるか昔から沖縄では、生き物や自然など身の回りのあらゆるものに、魂や神が宿ると信じられてきました。独特の文化と死生観が息づく島には、怪談や不思議な話がいっぱい!
そう、いつだって日常のすぐとなりで、人ならざるものたちは、アナタが気付いてくれるのをじっと待っているのです・・・
筆者:mochiking