特別名勝の一つとして、さらには世界遺産の一部として、多くの人が訪れる「識名園(しきなえん)」。ですが、その魅力はどこにあるのでしょうか。
実際に訪問して、その特徴や楽しみ方を探してきました。初めて訪問する際にぜひお役立てください。
==目次==
【1】識名園の基礎知識
【1-1】誰が、何のために、いつ作ったのか
【1-2】広さ・鑑賞の所要時間
【1-3】沖縄戦の影響
【2】識名園の楽しみ方その1…王道スタイル・歴史と伝統をたどる
【2-1】和・中・琉スタイルの融合
【2-2】独自様式の背景に琉球の歩み
【2-3】園内に残る昔日の面影、エピソード
【3】識名園の楽しみ方その2・植物を見つめる。生き物に親しむ
【3-1】植物編~南国ならではの植物も!~
【3-2】生き物編~天然記念物にも会えるかも~
【4】識名園の楽しみ方その3・静かな空間を散策してリフレッシュ
【5】持ってくるといいもの・おすすめの服装
【5-1】意外と体力を使う!その対策は
【1】識名園の基礎知識
【1-1】誰が、何のために、いつ作ったのか
琉球王家の別邸として、今から200年以上前に着工。1799年に完成しました。
主な利用目的は、王家の保養や、中国からの使い(冊封使)のおもてなしです。
場所は現在の那覇市真地。那覇市内にあるものの、最寄り駅ゆいレール「首里駅」からクルマで約10分の距離。市バス、もしくはクルマでのアクセスが便利です。(詳しくは【6】アクセス・開園日、開園時間・観覧料にて)
【1-2】広さ・鑑賞の所要時間
琉球王家の別邸は他にもありましたが、ここ識名園は中でも最大のもの。
2,000年に世界文化遺産として登録され、その指定面積は41,997平方メートル(約12,726坪)!
所要時間ですが、非常に広いものの、だいたい30~1時間程度あれば堪能できるでしょう。
パンフレットに載っている、主だった建物などを巡りつつ歩けば、大人の足で30分前後。
途中に多少の傾斜はあるものの、順路は分かりやすく、主要ポイントは8箇所ほどなので、速足で進むことも可能です。
逆に、長くいようと思えば1時間~1時間半は過ごせます。
園内の多様な動植物を観察したり、軒下で休んだり、写真を撮ったり。
ただし、園内に自販機や飲食店はありません。
このため、途中でお茶をしてまったり、という時間の過ごし方は難しいです。
【1-3】沖縄戦の影響
広大な面積と、長い歴史を持つ識名園。ですが、第二次世界大戦の沖縄戦で壊滅的な被害を受けてしまいました。
現在の姿は、1975年から約20年かけて再建されたもの。
とはいえ、その建物は細やかに再現され、石碑も元の拓本(石碑の凸凹を写し取ったもの)から作り直されました。
植物も生き生きと生い茂り、私たちを迎えてくれます。
【2】識名園の楽しみ方その1…王道スタイル・歴史と伝統をたどる
【2-1】和・中・琉スタイルの融合
ユネスコ世界遺産(琉球王国のグスク及び関連遺産群)に登録されている識名園。どんな点が特別なのでしょうか。それは、
- 和風庭園の様式ながら、
- 随所に中国風の建築文化が入り混り、
- さらに琉球ならではの建築法も取り入れた、
独特の設計に見られます。
たとえば、池を中心としてその周囲を回るスタイルは、「廻遊式庭園(かいゆうしきていえん)」といって、日本の大名が多く取り入れたものです。
一方で、池に浮かぶお堂や橋は中国風。
その池を取り囲むのは、琉球石灰岩です。
【2-2】独自様式の背景に琉球の歩み
どうしてこんなにも多様なスタイルを取り入れているのか。
それは、琉球王国の歴史と密接にかかわっています。
沖縄本島は、日本からはもちろんですが、中国、朝鮮半島とも地理的に近く、各国と交易しながら発展していきました。
そして次第に、日本の従属国でありつつ、中国の支配下にもある、という非常に難しい立場に立たされていったのです。
それでも、あくまで独立国家として歩んできた琉球王国。
識名園は、その多様な文化を受け入れてきた歴史の結晶でもあるのです。
【2-3】園内に残る昔日の面影、エピソード
園内の樹木や建物などに、いろんな歴史的背景があります。
【育徳泉】
何百年も清涼な水が湧き出続けている泉。
池の水源でもあります。
琉球石灰岩を琉球独自の技法で組み合わせ、優美な曲線が作られているのが見どころの一つ。
訪れた冊封使にも、その素晴らしさを称えられた育徳泉。
その際の碑が二つ残されています。
華やかだった昔日も、戦時中も、そして今も、この泉は優しく美しく、こんこんとわき出ているのですね。
【心字池】
識名園は、池の周りを歩いて楽しむ「廻遊式庭園」。いうなればこの池が、識名園のメインディッシュです。
歩いていると分からないのですが、実はこの池、”心”という字を崩した形になっています。
これもまた、かつての日本庭園の様式の一つ。
パンフレット片手に歩きつつ、「この辺りが”心”の3画目かな?」と考えるのも、楽しいかもしれません。
【石橋】
心字池には、いくつものアーチ(石橋)が架けられています。
中央が高く、水面に映ると円形に見えるこのスタイルは、中国風のデザインです。
【六角堂】
池に浮かぶようにして建つあずまや。
屋根の形、瓦の黒い色付けに中国の影響を残しています。
なんともオリエンタルな佇まいです。
ちなみに明治初期まで、実は四角い形をしていたという写真が残っています。六角堂ならぬ四角堂だったのですね。
ただ、正確な建て替え時期は不明だそうです。
【舟揚場(ふなあげば)】
かつては、池に小舟を浮かべて涼を楽しんでいました。
その小舟を揚げていたのがこの場所です。
六角堂の周りをゆったり進む小舟を思うと、なんだか風流ですよね。
古き良き時代を感じさせます。
【御殿(ウドゥン)】
御殿と書いて「ウドゥン」と読みます。赤瓦屋根の木造建築から琉球文化が感じられる建物。
総面積525平方メートル(約159坪)、広々とした、いわば識名園の”母屋”です。
15もの部屋があり、冊封使をもてなした一番座、続いて二番座……と連なっています。
大切な部屋からは、心字池や六角堂が見渡せ、静かで美しい景観が楽しめます。ここが貴人をもてなすために作られたことがよくわかる配置です。
なおこの「御殿」、2015年6月に熱い注目を浴びました。
囲碁の七大タイトル戦の一つ「本因坊」戦の舞台となったのです。
囲碁の対局というと、着物やスーツで打つのが一般的。しかしこのときは、井山裕太本因坊・山下敬吾九段ともかりゆしウェアを着ての対局となりました。
2015年8月現在、「御殿」には対局を記念して、囲碁盤と写真が飾られています。
【勧耕台】
那覇の町並みを一望できる高台。ただし、海を望むことはできません。
こう書くと眺めが悪いようですが、これはワザとの設計。
「小国」だと中国からの冊封使に侮られないよう、「海岸線が見えないほど広い国土がある」と見せるためだったそうです。
【壕跡】
沖縄戦の際、掘られた防空壕の跡が勧耕台周辺にあります。
空気を取り入れるための穴ですので、それほど大きくはありませんが、時にはここから出入りすることもあったとか。
ぜひ一度、探してみてください。
【3】識名園の楽しみ方その2・植物を見つめる。生き物に親しむ
識名園には、数えきれないほど多種多様な植物、生き物が集まっています。
何種類見つけられるかチャレンジするのも楽しいですよ。
【3-1】植物編~南国ならではの植物も!~
【デイゴ(梯梧/梯沽)】
“♪デイゴの花が咲き 風を呼び 嵐が来た――”
THE BOOMの曲『島唄』の歌い出しに登場する「デイゴ」。
ハイビスカスのような花をイメージする方もいらっしゃるかもしれませんが、その正体は、10m近い樹木。3~4月に赤い花を咲かせます。
「通用門」近くに見られます。(現在使用されている通用門ではなく、琉球王朝時代の通用門)
【サルスベリ(百日紅)】
中国南部原産の樹木。
細く背の高い落葉樹で、夏に紅色・白色の花を咲かせます。写真は7月末撮影。まだ花が咲くそぶりはありませんでした。
こちらは「正門」近くに見られます。
(これも現在使用されている正門ではなく、琉球王朝時代の正門。現在は通れません)
【ランタナ】
中南米原産。小さいながらも鮮やかな花をつけ、その色が赤・橙・黄・白と変わっていきます。
【アカギ】
すくすく伸びて25mほどにまで成長する樹。樹皮や材(内側)が赤いことからこの名前だそうです。
アジア島南部から南太平洋に分布する、南の樹木。
【ガジュマル】
沖縄で広く分布する大樹。ヒゲが伸び、大きく優しい木漏れ日を作ってくれます。
【シャリンバイ】
海岸に生える低木。今は、道路脇の分離帯などでよく植えられています。
やや丸くて厚みのある葉、秋に咲く小さな花が特徴。
【コバテイシ】
沖縄~小笠原諸島の海岸に広がる高木。
夏に小白花をつけ、やがて実った実は海に落ち、波に乗って旅に出ます。
ここ識名園では、心字池のそばに育っています。
【ソテツ】
いかにも南国らしいルックスの常緑小高木。
日本では、宮崎県から南に分布しています。
実は雌雄別株、つまり雌花ができる株と雄花ができる株に分かれるという生態をもっています。
【ゴモジュ】
石灰岩地によく生える常緑低木。1~4月になると、香りのよい花をつけるそう。勧耕台近くで見られます。
【ヒラミレモン/シークヮーシャー(シークワーサー)】
よくドリンクで使われるシークヮーシャー。琉球列島から台湾にかけて分布しています。果樹園で見ることができます。
【バナナ】
かつてはバナナ園もあった識名園。
その名残で、わずかながらバナナの木が育っています。
【リュウキュウマツ】
沖縄県の県木。
いかにも日本らしい松と沖縄とではイメージが合わない、という人もいるかもしれません。しかしこのリュウキュウマツは沖縄でかなり広く分布しており、気を付けてドライブしているとよく見かけます。
【3-2】生き物編~天然記念物にも会えるかも~
自然豊かな識名園には、多くの生き物が集まり、暮らしています。
識名園には、国の天然記念物の発生地があります。それは「育徳泉」。
淡水藻「 シマチスジノリ」という、細い糸のような藻です。夏期には少なくなるのですが、訪れた際にはぜひ探してみてください。(私は見つけられませんでした……)
番外編。入場口前で、門番のようにどっしり構えた猫さん。
何年も前から門前には猫がいる識名園。
観光客なんて意にも介さぬくつろぎっぷりです。正直かわいいです。
【4】識名園の楽しみ方その3・静かな空間を散策してリフレッシュ
散策の場として、静かで緑豊かな識名園はピッタリです。
池からあふれた水のあふれる滝口、木々が織りなす木陰、さりげなく笑う花々。ゆったりと、マイナスイオンたっぷりの空間をお散歩しましょう。
【5】持ってくるといいもの・おすすめの服装
【5-1】意外と体力を使う!その対策は
那覇市内からアクセスしやすい識名園。
早ければ30分ほどで回りきれますが、それでも快適に楽しめるよう、オススメしたい持ち物・服装があります。
【日よけの帽子か日傘】
池の周りなど、日光を遮るものがないところがけっこうあります。
夏場に訪れる場合は特に、日差し対策をしましょう。
【歩きやすい靴】
途中、傾斜や石敷き道が続きます。
石畳といっても完全に平らではなく、けっこう凸凹。ヒールのない靴がお勧めです。
【飲み物】
自販機や喫茶コーナーはありません。
水分は持参必須です。
【6】アクセス・開園日、開園時間・観覧料
【アクセス】
自家用車かバスで来るのが一般的です。
駐車場は入口すぐのところにあり便利。
バスの場合、バス停から降りて5分程度歩きます。最寄は「識名園前バス停」。
- ≪2番≫ 識名・開南線
- ≪3番≫ 松川新都心線
- ≪4番≫ 新川おもろまち線
- ≪5番≫ 識名・牧志線
- ≪14番≫ 牧志開南循環線
そのほか、ゆいレール「首里駅」で降りてタクシー移動(約10分)という方法もあります。
★住所……
沖縄県那覇市字真地421-7
【開園時間】
4~9月…午前9:00~午後17:30
10~3月…午前9:00~午後17:00
毎週水曜は休園日。
ただし水曜日が休日や”慰霊の日”にあたる場合、翌日に持ち越されます。
そのほか臨時休園日にあたる場合も。どうしても訪れたい場合、確認した方がよいでしょう。
那覇市 文化財課(「お知らせ」欄などに臨時休園情報が掲載されています)
【観覧料】
大人…400円(団体割引適用時は320円)
小人…200円(団体割引適用時は160円) ※中学生以下
なお小学校就学未満かつ保護者同伴時の小人は無料です。
【さいごに】
琉球王国の史跡というと、首里城が非常に有名です。
お城ほどの華やかさはたしかにないものの、静かに伝統を伝える姿は、風流そのもの。
木陰が多く、夏場のお散歩にもオススメ。
那覇にきたら、ぜひ一度足をお運びください。